「 中国の不安定化が増す中 尖閣防衛体制の確立は急務 」
『週刊ダイヤモンド』 2012年9月22日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 953
9月11日、日本政府が尖閣諸島を国有化すると、中国共産党機関紙「人民日報」をはじめ中国メディアはいっせいに反日デモの写真を一面トップで報じた。中国人民解放軍(PLA)陸海空軍は黄海の無人島で上陸訓練を実施、中国中央テレビが映像を報じ続けている。軍機関紙「解放軍報」は、中国は半歩たりとも引かないとして、対日軍事行動に出る可能性を示唆した。
領土問題は究極的には戦いである。武力に訴えてでも守り抜かなければ奪われる。中国の激しい反応はその意味で領土に関する国家の姿勢としては理にかなったものだ。無論、日本の領土を奪おうとする無法は許せないのは当然だが、今回の問題はむしろ国家らしからぬ姿勢を取り続ける日本にある。
岡田克也副総理、玄葉光一郎外相らは灯台の設置や船だまりの構築は中国を刺激するとして、野田佳彦首相に強い圧力をかけ、首相に諦めさせた。武力衝突を念頭に十分な軍事的備えをつくり、中国情勢を分析しなければならないいま、ひたすら中国を恐れる岡田、玄葉両氏や外務省に引きずられるのでは、野田氏には首相としての資格などないのである。
中国の国内情勢は不気味である。経済成長が8%を切るときが中国の危機だと、多くの専門家が指摘してきたが、7月13日発表の今年第2・4半期のGDP伸び率は7・6%だった。市場は「織り込み済み」として大きな混乱はなかったが、現地事情に詳しい金融専門家らは、中国経済の実態はもっと厳しいと、先行きを悲観する。
極端な投資主導型の中国経済の矛盾が噴き出し先行き不安が高まる中で、政治の不透明さが不安を一層高めている。一体何が起きているのかと疑うのが、習近平氏のことだ。9月5日、クリントン米国務長官との会談を急遽中止したことをきっかけに、その前日にもシンガポールのリー・シェンロン首相およびロシア代表団との会談を中止していたことが判明した。
複数の海外メディアは習氏が「水泳中に背中を負傷した可能性」を指摘したが、中国側の発表は全くない。
次期国家主席の座を約束されている習氏は、2人しかいない軍の統率者の1人でもある。中国共産党常務委員会(内閣)は胡錦濤国家主席を含めて9人で構成する。その中で軍への指揮権を有するのは軍事委員会主席の胡氏と副主席の習氏のみだ。
その重要人物の動向が現時点で、4日以降10日間も伝えられないのは異常である。中国の政治・社会問題に詳しい富坂聰氏は、3つの可能性を指摘する。(1)病気、(2)党大会目前で各国首脳との会談で言質を取られたくない、(3)党内の大きな権力争い、である。
(3)の可能性は低いとしながらも、氏は中国政府が情報を出さないこと自体が国際社会の不信を高め、混乱に拍車をかけると指摘する。事実、中国共産党大会の日程は未だ発表されていない。日程を発表しないのは、新指導者を選ぶ10年に1度の重要大会に、反政府、異民族、農民などの勢力による妨害行動が起きないよう警戒しているからだとの見方があるが、言い換えればそれだけ社会不安が深刻なのだ。
中国の唯一の強みである経済は明らかに大失速し、政治の不透明さが加わり、中国社会に深刻な動揺が広がるいま、尖閣問題も当然、影響を受ける。国民の不安や不満が共産党批判につながりかねないとき、国民の不満のガス抜きのためにも、中国政府が対日強硬策に踏み切る可能性は否定出来ない。尖閣情勢は解決に向かう力より、紛争に向かう力が働くと考えるべきだ。日本が最速で尖閣を守る物理的力を整えなければならないゆえんである。にも拘わらず、首相は岡田、玄葉両氏に同調して手を打とうとしない。2人の前任者よりましとされてきた野田首相だが、いまや早い退陣が日本の国益だといってよいのではないか。